第三話「藁しべ長者」

第三話「藁しべ長者」

今は昔、京に一人ぼっちの貧 (まず) しい若者 (わかもの) がいました。なんとか運が開けないだろうかと、長谷 (はせ) 寺へお詣 (まい) りし、心こめて観音様 (かんのんさま) を拝 (おが) み、<どうぞお恵 (めぐ) みを分けて下さい。でなければ、ここで飢 (う) え死にしたほうがましです…>と訴 (うった) えました。若者の心が通じたのか、夢 (ゆめ) にお告げがありました。<お前は前世の罪 (つみ) のむくいで、いま不幸なのだが、少しばかり助けてやろう、この寺を出るとき、どんな物でも手に触 (ふ) れたものを、仏からの賜 (たま) わりものとして大切にせよ>

若者は喜んでお寺を出ようとして門につまずいて倒 (たお) れ、起きあがったとき、一本の藁 (わら) しべを握 (にぎ) りしめていました。これが観音さまからの頂 (いただ) きもの? でも大事に持つうち、藁しべはすぐ役に立ちました。顔のまわりをぶんぶん飛ぶ虻 (あぶ) がうるさいのでつかまえて藁しべで虻の胴 (どう) を括 (くく) ったのです。虻は括られたまま飛びまわります。すると、

「あの男が持ってるものはなに?あれがほしいよう」

と幼 (おさ) な子の声。見れば身分たかい参詣者 (さんけいしゃ) の一行、牛車の窓 (まど) からかわいい男の子が若者を指しています。若者はにこにこして、

「よろしゅうございます。これは観音さまからの下されものですが、若君さまにさしあげます」

と渡 (わた) しますと、人々は喜んで大きなみかんを三つ、若者にくれました。

藁しべがみかん三つになった、と若者は嬉 (うれ) しく道をゆくうち、京から歩いて参詣に来たらしい人々が、倒 (たお) れた女あるじを囲んでさわいでいるのを見ました。女あるじはのどのかわきに息も絶え絶え (たえだえ) でした。思わず若者は走り寄り、三つのみかんを女あるじにあげました。彼女 (かのじょ) はたいそう喜び、三反 (たん) の布をお礼にくれました。

更 (さら) に旅するうち、みごとな馬に乗った侍 (さむらい) の一行とゆきあいました。ところがなんということ、若者の目の前で、その馬はにわかに弱り出し、急死してしまったのです。

侍はあわて、そしてがっかりします。高い価 (あたい) で手に入れたみちのく (東北) 馬だったのです。仕方なく他の馬に乗りかえ、従者 (じゅうしゃ) に死馬の始末 (しまつ) をいいつけて去ります。

途方 (とほう) にくれている従者に、若者は布を一反与 (あた) えて、私 (わたし) にお任 (まか) せ下さいというと、従者は大喜びで、布をひったくるように受け取り、いそいで去っていきました。

若者は手を洗 (あら) い口をすすぎ、長谷寺のほうを向いて一心に念じました。<観音さま、これがお望みのものなら、どうぞこの馬を生き返らせて下さい>…すると、ふしぎにも、馬は目を見ひらき、首をもたげて起きようとします。男は手を貸 (か) して起してやりました。みごとな馬でした。嬉しさ限 (かぎ) りなく、布の一反で鞍 (くら) を、残りの一反で自分のたべものと馬のまぐさを買い、なおも旅するうち、旅立ちの準備 (じゅんび) をしているらしい家のそばを通りかかります。旅行用の馬を欲 (ほ) しがっていましたので、先方のいうままに、一町の田とお米少々とに替 (か) えました。藁しべ一本から田んぼ持ちの長者になった若者は、家を建て、妻 (つま) を迎 (むか) えて、幸せに暮 (くら) しました。これも長谷寺の観音さまのおかげと生涯 (しょうがい) 、常に参詣を欠かさなかったそうです。

第二話「赤い牝牛」

第四話「尽きぬ米袋」