17才の少年の瞳に映った幻 空の水路・通潤橋

水への思い、人へのやさしさ

山都町を訪れる前に、ある疑問がありました。布田保之助はなぜ、白糸台地8ヶ村の人々を移動させなかったのかということです。江戸時代、村を捨てる逃散 (ちょうさん) は禁じられていましたが、新田開発を目的とした矢部郷内部での移動は許されたのではないでしょうか。年貢の増加にも直結するはずです。白糸台地は長年に渡って苦しんできました。移動した方が合理的ではないでしょうか。また、800名を救うために2万7千名以上のマンパワーを投入したと伝えられていますが、やはり800名が移動した方が合理的だと思えます。この点について、石山さんにお訊きしました。

石山 「保之助は、移動させるという選択はしませんでした。先祖代々この地に住み着いて、やすやすとは出れないという人々の心を慮ったのでしょう。白糸台地の水路には、希少生物が生息しています。アブラボテという魚、ゲンゴロウ、タガメ、ドジョウ、アカハライモリ、カマツカ。カマツカはこの地域では『ドンコドンコ』って呼んでいます。156年前に水路が引かれたときに白糸台地に入り、いまも生息しています。このことは、白糸台地の人々がいかに、昔の状態で清らかな水路の維持管理を行ってきたかを物語っていると思います。皆さん、先祖代々の地に深い愛着をお持ちなんです。村上末春さんも、案内ボランティアをなさったり、草刈りも率先してやっておられます。良か人に会えましたですね (笑)」

草刈り

山都町での出来事です。お話をお伺いした翌日、休日にもかかわらず、石山さんが撮影ポイントを車で案内してくださいました。放水の無い農繁期だったので、撮影が出来ないため、放水の写真の貸出しをお願いすると、快く承諾してくださっただけではなく、「放水の写真なら通潤山荘の支配人のほうが撮影が上手です。もう、話はしてありますから」ということで、紹介してくださいました。通潤山荘の支配人さんを訪れると、やはり笑顔で快諾、翌日にはメール送付してくださいました。 (お名前については、ご本人から「『すぐ写真を撮りにいく変な支配人』ということにしておいてください (笑) 」とのことでした。) 布田神社や通潤橋を案内してくださった村上さんは、「お、あそこに山藤が咲いてる、見てごらん、美しいなあ」「いまのはね、河鹿の鳴き声ですわ。きれいな声やなあ」と教えてくださいます。道の駅の食堂でコーヒーを飲むと「ああ、おいしいなあ」と。そして、別れ際には「またおいでや」と笑顔で声をかけてくださいました。

  • 石山さん1
  • 石山さん2

ふと想像の翼がひろがりました。この地の方々のやさしさは、昔も、同じだったのではないかと。蛇口をひねると飲める水が手に入る私たちと、当時の農家の人々では、水への思いは違うでしょう。『白糸台地は水に困り果てている。助けてあげたい』。それは長年に渡って、周囲の村の人々のやさしい心に刺さったトゲだったのではないでしょうか。そこに、天才・布田保之助、天才・丈八が同時代に出現した。「もしかすると…」という希望の光。その光のもと、2万7千人以上の人々が「こぞって」参加し、心血を注いで完成させた。それは水への思いと、人へのやさしさが生み出した奇跡の水路だったのではないでしょうか。通潤橋はいまも私たちに、その物語を語りかけているのかも知れません。

この写真集は、石山さん、通潤山荘の支配人さんからご提供いただいた通潤橋の写真集です。お楽しみください。最後に、石山さんの言葉を紹介します。

石山 「私は通潤橋を毎日眺めていますが、日に日に受ける印象が違います。天候の具合、陽の当たり具合とかで、表情が違うんでしょうね」

石山さん3

写真集

  • 通潤橋1
  • 通潤橋2
  • 通潤橋1
  • 通潤橋3
  • 通潤橋4
  • 通潤橋5
通潤橋6
通潤橋データ
通潤橋データ
住所 熊本県上益城郡山都町下市
建築年 嘉永7年 (1854年)
建設者 矢部郷惣庄屋 布田保之助
石工 宇市・丈八・甚平
長さ 75.6m
6.3m
高さ 20.2m
  • 「通潤橋」は、昭和35年 (1960年) 2月9日、国の重要文化財に指定されています。
  • 「通潤用水」は、平成18年 (2006年) 2月3日、農林水産省の疏水百選に選定されています。
  • 「通潤用水と白糸台地の棚田景観」は、平成20年 (2008年) 7月28日、国の重要文化的景観に選定されています。

通潤橋史料館

通潤橋史料館
〒861-3513 熊本県上益城郡山都町下市182-2 TEL.0967-72-3360
布田保之助や石工たちが通潤橋架橋に賭けた夢を知ることが出来ます。館内には、仕法書や実物の石管の紹介をはじめ、通潤橋の仕組みが分かる可動模型や工事を再現したジオラマ、再現映像の上映などがあります。なかでも、200インチの大画面で見る通潤橋の放水映像は圧巻です。

通潤山荘

通潤山荘
〒861-3661 熊本県上益城郡山都町長原192-1 TEL.0967-72-1161
九州中央やまめ街道に位置する山都町の宿泊施設。清流・緑川で育った「やまめ」と自然の食材をふんだんに使った田舎料理、露天風呂を一度に楽しめる「かたひじの張らない」お宿です。支配人さんの撮影による通潤橋の四季折々の美しい絵はがきは旅の記念の、またお土産としても好適品、おすすめです。
http://www.tsujun-sanso.jp/

<2011年5月18日 文責: くぼたのたんぼ管理人>

稲作2000年の地の心が守る 宇和町の水と風景