神と自然との調和として世界文化遺産に登録されたバリ島の田んぼと水利組織・スバック

バリ

インドネシアは東西約5,100キロメートル、南北約1,900キロメートルにおよぶ大小17,000以上の島々からなる群島国家で、国民総生産 (GDP) に占める農林水産業の割合が2011年14.7%を占める農業国です (日本は1.1%) 。米の生産量は2011年6,574万トンで、日本の840万トンの約8倍。中国、インドに次ぐ世界第3位の米産出国となっています (農林水産省ホームページより) 。

インドネシアは、1970年代の食料増産のため、灌漑設備の充実に加えて、バリ島の農業文化に着目したと言われています。バリ島の農業は、乾期の水不足に対してスバックという水利組織で水を厳密に管理し、輪番配水制度も活用して農業文化を発展させてきました。世界文化遺産に登録されたバリ島の田んぼの魅力をレポートします。

米作りはすべて楽しい

ビーチリゾートやガムラン音楽などで有名なバリ島は、世界的に名高い観光地です。ウブドやジャティルウィの美しい棚田を見ると「バリ島にも田んぼがある」と感銘を受ける方が多いと思いますが、バリ島は伝統的な米作りの島です

バリ島はインドシナ半島からオーストラリアへ連なる島々の一つで、ジャワ島の東隣、南緯8度、東経115度に位置します。東西約140キロメートル、南北約80キロメートルの南海の小さな島です。田んぼを訪問させていただいたのは11月の中旬、乾期から雨期に入って間もない季節です。

  • バリの田んぼ
  • オーナー

バリ島の多くは棚田ですが、標高100メートル以下のエリアには、広い田んぼもあります。この日、迎えてくださったのは、タマン・アユン地区で農業を営むイ・マデ・ルンダ (I made rendah) さん (写真左の方) とイ・ワヤン・パニャース (I wayan panyas) さん (写真右の方) です。イ・マデ・ルンダさんが田んぼのオーナーで、またこの地区のスバック (水利組織/後述) のスバック長でもあります。パニャースさんは、この田んぼで米作りに従事しています。

パニャースさんにまず、米作りの楽しい点についてお聞きしましたら、全部とのお答えでした。

パニャース「全部好きです。苗を育てるのも、田植えも、収穫も、何もかも楽しいです。そして、悪いことが何もなくて、ちゃんと時期通りに出来たら一番うれしいですね」

  • 害虫1
  • 害虫2

悪いこととは、ネズミやバッタ、カニなどの害獣・害虫の大発生だそうです。 パニャース「ネズミやバッタ、カニなどが大発生すると大変です。カニは一度に子供を二千匹も産みます。カニは水路を壊して穴を開け、水が出てしまいます。カニのために米が枯れる場合もあります」

カニが発生したら、鎌 (かま) でカチカチと叩いて退治するそうです。そのカニは食べられないのですか、とお聞きしましたら「食べると頭が痛くなるので食べられない」とのことでした。また、バッタは「若い米」を食べてしまうそうです。

雨期と乾期を通して三期作を実施

  • 雨期と乾期1
  • 雨期と乾期2

バリ島は熱帯雨林気候で、雨期と乾期の2つの季節があります。年間平均気温は約28度。乾期は4月から10月までで、日中30度を超える日もあります。雨期は11月から3月までで、スコールが降ります。

米作りについては、年間を通して二期作ないしは三期作が行われています。訪問した田んぼは稲穂が稔り、収穫の直前でしたが、同じ地域に田植え直後の田んぼや、穂ばらみ期の青々とした田んぼがありました。

  • 育苗1
  • 育苗2

育苗 (いくびょう) については、田んぼの一角に設定した苗代田 (なわしろだ) に水を溜め、種を直接播いて育てます。地域によっては、育苗業者から苗を買う場合もあるそうです。

稲刈りには二通りの方法があります。一つは脱穀機を使う場合で、稲の上の方を刈る高刈りを行い、脱穀機で脱穀します。

スワンナ

これが脱穀機で、スワンナと呼ばれています。

  • 脱穀1
  • 脱穀2

この日行われていたのは、日本と同じく根元を鎌で刈る根刈りです。根元を持って、脱穀用の網に叩き付けて籾を落としていました。田んぼのなかでの作業なので、籾が飛び散らないようにシートで囲っています。

  • 根刈り1
  • 根刈り2

パニャースさんが見せてくれた、竹製の農具に叩き付けて脱穀する方法も一般的だそうです。お米は日本の主食であるジャポニカ米ではなく、細長い長粒種のインディカ米です。

  • 篩1
  • 篩2

脱穀をした後は、篩 (ふるい) を使って藁くずなどを取り除き、バケツに溜めていきます

  • 藁束1
  • 藁束2

藁束は、束ねて保存しておきます。これは農耕用の牛のエサにします。牛の糞は肥料にします。

キャベツ畑

ここは転作してキャベツを作っている畑です。夕方に収穫し、夜に開かれる卸売市場に出荷するところです。

田んぼのお寺

パニャースさんが左手で持っているのは、代掻きのときに田んぼを均 (なら) す農具で、日本の伝統農具である柄振 (エブリ) と同じ形ですが、素材は椰子と竹で出来ています。右手に持っているのは日本には無い道具で、振ると大きな音が出る楽器のようなものです。音を鳴らして鳥を追い払う農具だそうです。

パニャースさん
  • 柄振
  • 牛

右の写真の牛は、バリ島特産の牛で、農耕用です。脚の下部が白いのが特長です。

  • お寺1
  • お寺2

日本と違うのは、田んぼのなかに必ず「お寺 (プラ=Pura) 」があることです。バリ島における米作りはバリ・ヒンドゥー教と密接に結びついています。「土地はその上にあるものを含めて神の所有であり、人間はその上で働き、そこから得られるものを楽しむことが許される」と考えられています。

お寺3

バリ島の農作業は、儀式とともにあります。さまざまな儀式がこの「お寺」で実施されます。 ルンダ「水の神、火の神、田んぼの神、稲の神…バリには神様がいっぱいいます」

乾期も水に困らないスバックの力

ミーティング

ルンダ「水は、スバックがちゃんと管理しています。スバックの始まりは、水を配分するためのミーティングです。ずっと昔からあります」

200年の伝統を誇るスペイン・バレンシアの田んぼ